2012年02月18日

フェラーリが選択したフロントプルロッド

F1の今年の車が各チームから発表されました。変なレギュレーションにより、ほとんどのチームがノーズに段差があるおかしな車になっています。

F2012

段差以外で一番目を引いたのが、フェラーリがフロントサスペンションにプルロッドを採用してきたことです。2001年のミナルディ以来、11年ぶりのフロントプルロッドです。そのときミナルディの車を運転していたのがフェルナンド・アロンソというのも面白い偶然です。

2011vs2012

以前、プッシュロッドとプルロッドについて書いたときに、フロントは下の空間をあけたいのでプルロッドは使わないと書きましたが、それを見事に覆されてしまいました。

今回は常識やぶりのフロントプルロッドについて、考えてみようと思います。

F1で使われているダブルウィッシュボーンサスペンションは、上下のアームが水平に近い方がサスペンションの動きがよくなります。2006年くらいまでは、車体の下に空気を流すのとアームを水平にするのを両立させるために、モノコックの下にロワアームを接続するためのキールと呼ばれるでっぱりを作って、そこにロワアームを接続していました。(参考リンク:Redbull RB2 - V keel)

F1-2006

この写真は2006年のフェラーリですが、アームがほぼ水平、少しだけ逆ハの字型になっています。フロントウイングに隠れて見えませんが、ロワアームはモノコック下のでっぱり(キール)に繋がっています。この頃は、キールを作ってでもアームを水平にすることに拘っていました。

今はキールを作らずにモノコックに直接サスペンションを接続するゼロキールが主流です。ゼロキールでは、ノーズ下部に障害物が無いので空力面では優れているのですが、ロワアームの車体側の取り付け位置が高くなるのでサスペンションはハの字型になってしまいます。今年の車の写真でも、サスペンションアームがかなり斜めになっているのが分かると思います。

ロッドはサスペンションの上下動を押し引きの力に変える役目ですが、ロッドの向きがサスペンションの動く方向に近い角度ほどストロークが長くなり、角度が離れるほどストロークが短くなります。このストロークの違いはロッドにかかる力に影響し、同じサスの硬さにしようとするとストロークが短いほどロッドに大きな力がかかります。また、この比率をレバー比とか言ったりします。

今年の車では、去年のプッシュロッドと比べるとロッドがかなり水平に近く、一見レバー比が物凄く上がったように見えます。実際はそんなに上がってないです。

タイヤが上下に動くとき、厳密には上下ではなくサスペンションアームの付け根を中心とした円の動きになります。下反角が付いたサスペンションでは、タイヤが上に動く際に車体から離れるように外側に移動します。

下反角がついたサスペンションの動き

この動きは常にアームに直行した方向になるので、ロッドのストロークはロッドとアームの角度によって決まります。結局、プッシュロッドのAの角度と、プルロッドのBの角度が等しければストロークは同じということになります。

これを踏まえて去年と今年のアームとロッドのなす角を見てみると、ほとんど変わっていません。若干今年の方が狭くなっているように見えるので、少しだけレバー比が上がってそうです。

ハイノーズ化とゼロキール化によってサスペンションアームに下反角がついてしまった結果、空力に影響を与えない位置にスプリングを置いてもプルロッド化が可能な状況になっていたようです。下反角が付きすぎてロッドの角度を稼ぐのが厳しいプッシュロッドよりも、プルロッドの方が無理がないのかもしれません。

最初にフェラーリの車を見たときに、プルロッド化の影響でアームに角度がついたのか、または角度がついてきたからプルロッドにしてきたのかと思ったのですが、去年の車と比べてみたらアームの角度はそれほど変わっていませんでした。近年は車の後ろばかり注目していたので、フロントサスペンションにここまで角度がついているとは思いませんでした。

ところで、プッシュロッドとプルロッドではサスの特性が変わってしまいそうです。

今年のアーム角度が18度、ロッドの角度が10度という情報があったので、そこから試算した数値から角度ごとのロッドのストローク比を計算してみました。同じ下反角18度でアームとロッドのなす角が28度のプッシュロッドも求めてみました。

下反角18度のサスペンション

グラフ下の目盛りはアームの下反角で、0度で水平、90度で完全に真下を向いている状態です。

ストローク変化

グラフが交わっている部分が下反角18度の状態で、ここで両者のストローク比が同じになるように設定してあります。実際の作動範囲は数度なので、18度付近から左側少しだけの部分が使われます。

プッシュロッドでは、アームが水平になるほどストロークが増えていく傾向にあり、プルロッドではフラットに近く若干ストロークが減っていきます。これはプッシュロッドでは車体が沈み込むほどにサスが硬くなっていき、プルロッドでは少し柔らかくなっていくことになります。この辺の違いがステアリング特性にも影響しそうです。

フェラーリが何を狙ってフロントをプルロッドにしたのかは分かりませんが、今の下反角18度のサスペンションならプルロッドは有りだと思います。レイアウト的にもこちらの方が無理がなさそうですし、多少の低重心化もできますし、上下のでっぱりが減る分空力的にも多少は良さそうです。

ただし、今年の段差ノーズの原因になったルール変更が、衝突時の安全性のためにノーズを低くさせることを目的としているので、今後モノコック部分まで高さが制限されるようだとプルロッドは厳しいと思います。

タグ:F1
2012年02月18日 【雑記】 | コメント(1) |

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この記事へのコメント

サスペンションの角度をまとめたサイトによると
フェラーリ2011 アーム12度 ロッド38度
フェラーリ2012 アーム17度 ロッド-8度
マクラーレン2012 アーム5度 ロッド32度
らしいです。
(たぶん写真からの実測なのであまり正確ではないと思う)

アームとロッドのなす角は26度、25度、27度とどれも同じくらいですね。
Posted by 新坂 at 2012年02月18日

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